2016年9月17日土曜日

余韻 Trio Los Fandangos @El Choclo

今週は、なんとなく口元がほころんだまま過ごしていた気がする。
理由ははっきりしている。月曜日の晩、雑司が谷のタンゴバー エル・チョクロで聞いた
我らがトリオ・ロス・ファンダンゴスのライブ。
そもそもタンゴという音楽は、人を元気にする、生きていることそのものを喜ぶ気持ちにさせてくれる音楽だけれど、TLFの演奏は本当に楽しくて、愛があって、力強くて、聴く者を幸せにするのだ。

福岡・北九州を拠点とする彼らの東京首都圏へのツアーも、今や毎年恒例となった。
TLFもすっかり東京の愛好家達に認知されて、嬉しい限りである。
今回は、5日間6回のライブ、うち4回はミロンガ演奏というスケジュール。
踊らせる音楽はもともとの彼らの志向ではあったけれど、メンバー自身が踊るようになって、レパートリーも演奏スタイルもミロンガで歓迎されるものになってきたことが、この数からもわかる。

以前からミロンガに楽団が入ることはあったけれど、かつての演奏者たちは普段のコンサートやライブと演奏を変えることなく、ピアソラやステージタンゴ向きの楽曲を選んで「さあ、これで踊れ」とばかりに演奏し、テンポを揺らしたり、変わった編曲で終わりがわからなかったり、これではとても踊れないというケースが多かった。私はそのころはまだ初心者で、CDでかかる曲もあまり知らなかったから、ライブ演奏の方が息遣いがわかっていいなあ、くらいに思っていたけれど、長年録音で踊ってきた人たちは「ライブ演奏は踊りにくいですよ。CDが好き」とはっきり言っていた。
刺身より干物が好きな人はいるものだけど。

TLFが東京に来るようになって、東京の楽団でも特に若い人たちがミロンガでの演奏をするようになり、最近は踊り手たちもライブ演奏で踊ることを楽しみにするようになっている気がする。中でも特に楽しみにされているのがTLFだろう。
私も今回ライブミロンガに行くことも考えたけれど、楽しければ楽しいだけ夫の不在を思って寂しいし、それ以前に、自分が終電まで遊ぶために夫の見守りを誰かに頼むというのは気が進まないので、月曜日に仕事を休んでエル・チョクロに足を運ぶことにした。

夫の代わりにTLFに同行してブエノスに2回も行っているうさこを連れて行く。
  

最前列の席をゲットしてしばらく待っていると、谷本さん登場。
「うさこも来たの」と言うと、当然のように譜面台にセット。
そう、ブエノスではいつもこうして演奏してくれていたのだ。

今回のライブには歌手のKaZzmaも参加。
彼らが初めていっしょにやった横浜エアジンでのライブも最前列で聞かせてもらっていたけれど、その後TLFが毎年ゴールデンウィークに九州、山口、広島で行っている「タンゴの節句ツアー」に昨年KaZzmaが参加したのを経て、有機化学反応が一段と活発にエネルギッシュになって、とてもよいステージになった。


 
 
 
 


「40年代のミロンガ」から「Paciencia」」まで、ソロ、デュオも含めて19曲、選曲のバランスもよく流れもスムーズで、なにより生音で聞けたのが、身体に音がどんどん浸み混んでいく感じでとてもよかった。しかし、これだけ踊り手の好きなナンバーがレパートリーに入ってくると、ミロンガでライブとともにDJする人たちは泣かされるだろうなあ、と思うくらいだけど、きっとTLFは止まらないだろう。

そしてオートラに、私の大好きな Mariposita!  生で歌われるのを聞いたのは初めてだったかもしれない、KaZzmaの歌唱が素晴らしくて、幸せいっぱい。思わず「かっこいい!」と声をかけてしまった。そして、もひとつおまけの Vida Mia も会場をふんわりと優しく包んでみんなを送り出してくれるすてきな演奏だった。

音楽と良い時間を過ごすと、もっと、もっと、と求める気持ちが沸くのもわかるけれど、
今はこの余韻でもうしばらくニマニマとして暮らせそうな気がする。

そうそう、次回までに El Dia はちゃんと歌えるようにしておこう。

2016年9月7日水曜日

"Trumbo" 「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 

(日本語は下です。)
(Just to keep record of a movie I saw this summer.)

The movie, Trumbo, is about screenwriter Daniel Trumbo who lived through the era of McCarthyism as a Communist sympathyzer.  He was convicted of contempt of Congress for not providing information about his or others' involvement in Communist activity, and served time.  He could not get work assignment after he came out of the jail, because he was blacklisted, so he supplied scripts under different names.  His Oscar winning works included Roman Holiday.

As a student of American Studies, I had common sense knowledge about McCarthism in Hollywood.  I knew such actors like Gregory Peck and Henry Fonda tried to help those who were expelled from the industry, while Ronald Reagan was among those who cooperated with the House Un-American Activity Committee. But I knew little about individual stories at the time, including one about Trumbo, so the movie was very informative and intriguing to me.

The movie centers around Trumbo, but gives close discription of people on both sides--- his family, friends, friends-turned-foes, sympathyzers, etc.  It does tend to make you sympathyze with Trumbo, but you can see things were not so simple as he vs. society as villain. 

Those who went after Communists and their sympathyzers did so not because they wanted to do harm on them or they were mean, but they were filled with fear that their footing might collapse.  They seriously believed that Communism on their own soil would damage democracy and freedom, and out of fear, they tried to eradicate Communists.

It was FDR who said the only thing we have to fear is fear itself.
I truly agree. 
Not having lived through the era myself, it's not easy to imagine how much threat the American felt with the developments on the East side of the world.  But if you had placed trust in unshakable, eternal being, you would not have felt that much fear to unfairly deprive your fellow countrymen of their rights.

Early in the movie, Trumbo's daughter asks her father if he was a Communist.
He says, Yes.  Then she asks if her mother was also a Communist.
He saysm No.  Now, she asks if SHE is a Communist.
The father returns a question:  if your mother made a good lunch for you, and, when you go to school, there is a friend who didn't bring any lunch.  What will you do?
She says, I'll share.  He asks, won't you tell him to go work to earn money?
She says, No,  I won't do that.  He asks, won't you lend him money at a high interest rate?
She says, laughing, Noooo.  The father says, well, you are a little Communist.

This is one of my favorite scenes from the movie.


少し前に見た映画について備忘的に。


トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は米マッカーシズムの時代を生きた脚本家、
ダニエル・トロンボを中心に、その時代が終わりを告げるまでを描いている。
マッカーシズムについては、ハリウッドの有名俳優たちが排斥される一方、
のちに大統領となるロナルド・レーガンなどは排斥に協力的であった
などの常識的知識はあったものの、詳しいことはあまり知らなかった。
トランボの名も、彼とその仲間が、偽名を使って作品を世に送り出し続けたことも、
アカデミー賞を獲った「ローマの休日」は友人の名を借りて出したものだったことも、
全然知らなかった。

映画では、必ずしもトロンボやブラックリストに載せられた人たちが被害者で、排斥する側、寝返る人が悪者、と言った単純な描き方ではなく、それぞれが、それぞれの立場で、時代を生き延びようと知恵を絞り、悩んでいた様子がよく表されていた。

そのせいか、見終わった時に私の頭に浮かんだのは「怖れ」という言葉だった。
確かにあの時代のアメリカで、共産主義は民主主義の対極であり、国内にその分子が存在することは、自分だちの依って立つ体制が揺るがされると信ずるに十分だったのかもしれない。アメリカをアメリカたらしめている価値観を危機にさらすものは許さない、というところがアメリカ的でもある一方、それを理由に同胞の基本的人権を否定するまでになるというのは、アメリカらしくないとも言える。結局のところ、彼らを突き動かしていたのは、自分の足元が危うくなるという「怖れ」だったのではないか。

近年地元県内では在日韓国朝鮮人を標的にしたヘイトスピーチ、ヘイトデモの問題が深刻になり、ネット上でもナショナリスティックな言葉が頻繁に飛び交っている。
オリンピックの報道では、大会の中では禁止されている国別メダル数ランキングを繰り返し言い立てて「国威発揚」に平和の祭典が利用された。
多重国籍の国会議員に対して、感情的な反応が堂々と披瀝されている。
いまこの国で醸成されている空気の中に、怖れとそれを利用する力とがあることを、改めて想起させられた映画だった。

怖れるべきは怖れそのもの、というFDRの言葉を思い出す。