2013年8月5日月曜日

PCリテラシー

夫の病気ALSは、筋肉を動かす神経細胞が原因不明で壊れ、
筋肉を動かすことができない→筋肉が再生しない→筋肉が落ちていく→動けなくなる
という病気で、この「筋肉」には「呼吸筋」も含まれるため、
呼吸ができなくなって死に至る、とされている。
発症の仕方は個人差が大きく、また進行速度も速い人遅い人色々なので、
10万人に2~3人という数の少なさもあり、他人のケースがあまり参考にならない病気である。

夫の場合は、最初に指の震えを感じてからほぼ2年となる今、
手や腕を自分で動かすことはほとんどできなくなっている。
手が少しでも使えていた間は、一日中iPhoneを手に持って、ネットで調べ物をしたり、
SNSで友人とやり取りしたり、看護スタッフやドクターと電話したりしていた。

手を使うことが難しくなってきたとき、今度はまだ自由の利く足を使ってPCが使えないか、
と調べ始め、横浜市福祉機器支援センターに相談したところ、
もともとは手で使うための大ぶりのトラックボールをマウスの代わりにし、
それとクリック用のスイッチを試作してきてくれた。
どうやらそれでいけそう、と発注したものの、なかなかできてこないので
 (これにひと月近くかかったのは、この病気に対する認識が甘いと言わざるを得ない)
夫はさっさとトラックボールを右足用、左足用と2個購入し、
片足だけ疲れないように工夫して使い始めた。

普通手でPCを扱っていると、例えば文字入力の際、キーボードをたたく必要があるのだが、
夫はソフト・キーボードを画面上に出し、トラックボールでキーを一定時間ポイントすれば
クリックしなくても叩いたのと同じことになるように設定したり、
キーからキーへの移動が大きくなると疲れるので、キーボードを小さくしたり、
使い勝手を工夫している。

PCが使えるとなると、PCを介してできることをどんどん思いつくらしく、
リビングに置いた自慢のステレオとPCをつなぐ仕組みを考え、
そういう事柄に明るい友人たちに来てもらってセットアップ。(ありがとう、Rueda de tango)
PCの中に取り込んだ膨大な音源を、好きな時にステレオで再生して楽しむようになった。
(ステレオとPCがつながっていると、PCからの音はステレオから出るので、
 DVDやYouTubeを見る時も迫力満点である。)

さらに、家電のリモコンをPCから動かす機器もネットで探し出して購入。
友人(Fくん、ありがとう)に手伝ってもらって、無事設置。
一人の時でも、テレビのスイッチを入れ、好きなチャンネルを好きな時に楽しんでいる。

新聞は電子版で読んでいるし、電子化されていない文字で読みたいものは
スキャナで取り込んで読んでいる。 (ただ今自炊ボランティア募集中)

仕事でずっとコンピュータを使ってきたとはいえ、
自分の「こういうことがしたい」を、「こうしたらできるはず」に変え、実現していくところは、
見ていて感心する。
こういう病気になって、PCと、そこからつながる世界を知っている、扱えるのと
そうでないのとでは、きっと暮らしぶりも違うのではないかと想像する。
と同時に、患者の近くにいる人たちが、必ずしもPC利用の可能性について明るくないこと、
患者自身が声を出さないと、なにができるようになったらいいのか気づいてもらえない現状に
歯がゆい思いもある。

「Steve Jobsが、がんじゃなくてALSになっていたら、
きっと色んな便利なものを考えてくれただろうな」
とは夫の弁だが、居ない人のことを言っても仕方ない。
元気な開発者たちが、大量消費や金儲けだけでなく、
ハンディのある人にも目を向けてくれることを期待しよう。
それはたぶん、それ以外の多くの人の役に立つに違いないから。


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