2018年8月25日土曜日

メンターオ ライブ

残暑厳しい土曜日の午後、銀座SOLAでメンターオ五重奏団がタンゴ黄金期の音楽をテーマにライブをするというので聞きに行ってきた。

 

メンターオは、夫と共にオルケスタYOKOHAMAに参加していたバンドネオンの池田達則くんとヴァイオリンの専光秀紀くんが、コントラバスの大熊慧くんと共にブエノス・アイレすに修行に行った時に向こうでもらってきた名前で、そこにピアノの松永裕平さんとヴァイオリンの宮越建政さん(「くん」づけと「さん」づけに深い意味はありません)が加わってキンテートとなっている。

オルケスタYOKOHAMAはいま活動休止になっているのだけど、主宰の齋藤一臣氏がOsvaldo Pugliese に心酔し、交流もあったことから、プグリエーセスタイルを基本にしてきた楽団。

私が初めてタンゴの生演奏を聞いたのはオルケスタYOKOHAMA(その頃はまだ、以前の渾名のシエテ・デ・オロを短くして、シエテYOKOHAMAと呼ばれていた)だったし、夫がダンスもやろうと言い出すまでは、耳から聞くのも楽団のレパートリーやプグリエーセの録音が主だったので、私の中のタンゴのベースはプグリエーセだ。
それが、ダンスからタンゴに入った人とも、戦後のタンゴ・ブームからのタンゴファンとも、90年代後半のピアソラブームからタンゴに触れた人とも、ちょっと違っている、ということに気づいたのは、ずっと後になってのことだ。

ピアソラブームを経て、いま日本でタンゴを演奏する新しい世代が随分育ってきて、ライブやホールでのコンサート、他の分野とのコラボ、ライブ・ミロンガと、彼らの演奏を耳にする機会も増えた。中には耳コピして古典と言われるタンゴを書き起して演奏する人もあるし、自分なりの新しい編曲にチャレンジする人も多い。しかしいかんせん、黄金期のオルケスタというのは10人からの編成で演奏するものだから、それをトリオやカルテット、キンテートでやろうとすると、どこか違うものになりがちなのも事実。それを認めないとか偉そうなことを言うつもりはないが、私が好きなのはやっぱり馴染んだスタイルの演奏になってしまう。

メンターオは、そのプグリエーセが大好きなメンバーが、ガチで王道の演奏をしようと志してやっている。前回聞いたのは、もう2年くらい前のことだと思う。きっとますます腕を上げただろうと期待して今日を迎えた。そして、その期待に応えて余りある演奏を届けてくれた。

しょっぱなのRecuerdo。2005年にオルケスタYOKOHAMAでブエノスに行き、Casa del Tangoでこの曲を演奏し、プグリエーセ夫人のリディアさんが涙していた様子が眼前に蘇ってきた。そう、この音だ。プグリエーセからシエテへ、そしていまメンターオへ、ちゃんと受け継がれている。それがはっきりわかったから、もうずっと安心して聞いていられる。メンバーも以前聞いた時よりずっと自信を深めて胸を張って演奏しているように見えた。「もしプグリエーセがリベルタンゴをアレンジしたら」という意欲的な編曲もあったりして楽しめた。(個人的には、プグリエーセ・ヴァージョンの「夏」も好きだ。)

一部の最後、A Los Viejos では、バンドネオンに夫の音が重なって聞こえた。息遣いというか蛇腹の使い方やフレージングがきっと同じになっていたのだろうけれど、なんだかとても嬉しかった。一緒に弾いてる、ここに生きている、そう思ってよいのだろうか。

二部では、よそではほとんど聞く機会はないだろうけれど、私にすれば定番の Bordoneo y 900 とか Seguime si podes とか A Evaristo Carriego が聞けて嬉しかった。特にA Evaristo Carriegoは、「タンゴこの一曲」を私が挙げるとしたら選ぶくらい好きな曲だ。

アンコールはプグリエーセの代名詞、La Yumba と La Mariposa とこれまたよい選曲だった。

ティピカ編成の楽曲を小編成に作り替えて見劣りしないように演るのはなかなか難しいことと想像できる。そこをどううまくもっていくか、それはタンゴの本質部分をきちんと学んでいるかどうかで決まると思う。バンドネオン1本で900みたいな曲をやるのは特に大変だろうと思うけれど、池田くんはもちろん、メンターオとしてよく考えて、また技術を磨きとても密度の濃い、優れた演奏をしてくれた。

夫が病気になって楽団を抜けてからは、実はほとんどオルケスタYOKOHAMAの演奏は聞いていなかった。どうしても夫の不在に目が行ってしまい、辛かったのだ。そうこうしているうちに、楽団は休止になったけれど、メンターオのライブに行けば、こういう演奏がまた聞けるのは本当に嬉しいことだ。そしてそこには夫の音も確かにつながって息づいていることに、心から感謝したい。ありがとう、メンターオ。

2018年8月12日日曜日

Summer Vacation (again?)  夏休み再び

(日本語は下に)

As a freelancer, I get to find OFF days any time of the year, so I don't feel the need to set aside days or weeks to call them "vacation" like most people do in summer or over Christmas, New Year's, etc.
I also like to stay home when I have some spare time.  Some people just go out when they have a day off, for example,  without deciding what to do.  I'd rather stay home, maybe because my parents were like that.

So, for me, when I go out to do something for pleasure for a few days in a row, that will MAKE a vacation.
It happened last month when Trio Los Fandangos came to Tokyo as I wrote in my earlier entries.
This past weekend turned out to be another summer vacation for me.

On Friday, I went to El Choclo, a tango bar in Tokyo to hear Barrio Shino, a quartet formed by Shino Onaga.  Last time I heard Shino play was maybe 7 or 8 years ago, and I was looking forward to hear how she changed after spending 5 years in Buenos Aires.  My favorite tango singer KaZzma was featured, which also attracted me to this concert.  Among the house full guests, I found more familiar faces than expected, which was nice.  I enjoyed Shino's challenging arrangement, the quartet's sure performance enhanced by KaZzma's powerful voice.  The good thing about El Choclo is that you can hear the raw sound without the PA.  You can really feel the power of music, especially tango.

On Saturday and Sunday, I attended special workshop/lesson given by Daniel Urquilla & Mihoko Sakai--- Folklore from Argentina's south on Saturday and Milonga on Sunday.  In both lessons, Daniel taught energetically and enthusiastically, revealing his love for dance.  I liked the way how he started from basic movements and build up on them to give us the full picture of the dance he was teaching.  He also talked a lot about the background of the dance we were learning.  It's important for us to know the history of the dance and music especially when they belong to a different culture from ours. 

Long hours of lessons often leave me feeling tired, but not this time.  I came home feeling light both at heart and physically.


フリーで仕事をしているので、世間並に〇〇休みを取ろうとかあまり思わない。
もともと休みには家にいるほうが好きなクチである。時間があくと、何をするか決まっていなくてもとりあえず出かける、という人もけっこういるみたいだけど、私は用事がなければ出かけない方で、多分それは親がそうだったからそれが当たり前になっているのだ。
だから、仕事以外のなにかお楽しみで出かける日が何日か続いたりすると、その期間が休暇に「なった」ということになる。先月、TLFが来ていた間、ほぼ毎日彼らを聞きに行っていたのが夏休みになった、というのはこのブログでも書いた。
そして、この週末はまた、結果的に再びの夏休みになった。

金曜日は、雑司が谷のタンゴ・バー「エル・チョクロ」に大長志野さん率いるBarrio Shino四重奏団を聞きに行った。志野さんのピアノを聞いたのは、もう7、8年前になるだろうか。その後ブエノスに渡った彼女がどう変わっているかを楽しみに、またこの日は、大好きな歌手KaZzmaも出演ということで出かけた。聞き覚えのある曲を志野さんの新風を吹き込んだ編曲で聞く。KaZzmaのパワフルな歌声とカルテットの絡み合いの妙。エル・チョクロのよいところは、この編成なら生音で聞けることだ。タンゴは生音が一番と私は思っているので、とても豊かで楽しい時間を過ごすことができた。

土曜日、日曜日は、Daniel Urquilla & Mihokoの特別クラスに出てみた。
土曜日はアルゼンチン・フォルクローレのうち、南のHuellaとTriunfoのワークショップ。
日曜日はミロンガ・スペシャルクラス。
DanielのことはFBで友達になっていたり動画を見たりして知ってはいたけれど、これまでクラスを取る機会がなく(そもそもこの6年はそれどころではなかったし)、今回はスケジュールに無理がなかったので出てみることにしたのだ。
フォルクローレもミロンガも、まず基本の動きをしっかり身体に覚えさせてからその上に積み上げていく教え方は好感が持てた。頭でなく体で覚えることはとても大事だし、忘れにくい。(忘れない、とは言い切れないところが情けないのだが。。。)そして、身体を動かしながら、それぞれのダンスの歴史や背景を丁寧に教えてくれたのも嬉しかった。異なる文化の一部であるダンスを学ぼうとするとき、それは不可欠なことだと思うから。Daniel自身も日本の身体表現について学んでいて、どういう伝え方をしたら私たちにわかりやすいか工夫しているように聞こえたのもありがたかった。

Danielは、自分にとってタンゴは「背中、すなわち過去への思い」、ワルツは「胸から前へ、つまり未来や希望」、そしてミロンガは「いま、ここ、今感じる幸せ」なのだという。だから、きょうこのミロンガのレッスンにみんなが出よう、と思ったのもきっと偶然ではなく、幸せな気持ちを求めているからここに来たのだと思う、とDanielが話したとき、腑に落ちるものがあった。
夫が亡くなって半年、さまざまな時間の制約がなくなり時間はあるものの、ひとりで何をしてもつまらないし、なにかを楽しもうという気持ちにもなれず、ふと心が惹かれるものがあれば出向いてみる、という暮らし方をしてきた。毎週きちんとレッスンに通うとか、そういう気分にはなれなかったけれど、この二日間のお知らせを見たとき、これには行こう、と思えた。そう思わせたのは、Danielの言うミロンガの意味、その力だったのかもしれない。

長時間のレッスンやミロンガの帰りは疲れや足の痛みを感じるものだけれど、今回は全然それがなくて、むしろ心も身体も軽くなって帰宅したのだった。
(年寄りの筋肉痛は2日後というから、油断はできないけどね。)