2017年6月12日月曜日

歳を重ねる

私が子どもの頃は、公式には満年齢が使われていたけれど、まだ数えで歳をいう習慣もあり、正月には祖父母から「あんたはいくつになったんだい」と聞かれたものだった。そもそも誕生日より正月、お盆、命日というのが伝統的には大切な日だった。作家など有名人についてもその誕生日より命日を「〇〇忌」として覚えるのが日本的なのであって、「生誕〇〇年」を祝うのは西洋の習慣だった。

だから誕生日を祝うのはかつては主に子どものためにすることだった。せいぜい小学校の低学年までが友だちを招いてお誕生会なるものをするのであって、それもお茶とおやつのくらいであれこれご馳走を出すというようなことはしなかったと思う。大人が誕生日、というか年をとったことを祝うのは還暦過ぎてから。だからこそ、喜寿だのハトだの米寿だの白寿だのというのがあるのだろう。

それはおそらく歳を重ねた人を敬うこととも繋がっている。昨今は若さにばかり価値が置かれて中高年、あるいは高齢者になっても年齢より若く見えることや若者同様に何か出来ることばかりが良いことのように言われている。テレビを見ていてもそうしたことを実現するためのサプリのCMが次々に放送される。しかし歳を重ねた人には「亀の甲より年の功」というだけのものがあり、だからこそ目上の人を敬ってきたのがこの国の文化だったのだ。

確かに近代以降、教育制度が発達、充実し、昔の年寄りより今の若者の方が多くの知識を身に付けるようになったしそういう意味で「年の功」が感じられない年寄りも増え、それで年長者を敬わなくなってきたのかもしれない。私の大学の恩師がよく言っていたのだが、「教育は経験のショートカット」である。昔の人が何年もかかって体験したことを、いまは教育のおかげで効率よくなぞることができる、という意味だ。自分自身もその恩恵に与りつつこのフレーズを思い起こす時、ショートカットできない経験がある、とも思うのだ。それが歳を重ねる、ということだ。年月を経る、それだけの時間の経過の体験そのものは、体験してみなければわからない。決してショートカットはないのである。だから、だから自分より長く生きている人はそれだけで敬うべき存在なのだ、ということをかつての社会では教えられてきたのではなかったか。世の中は少しずつ変化するけれど、私自身は「伊達に年をとってないよね」と言われるような歳の重ね方をしたいと思っているのだ。

と言って、誕生日にはそれほど重きを置いてはいない。成長する過程で家族に祝ってもらうこともほとんどなかったせいかもしれない。結婚してからは夫婦で互いに祝い合ってきたけれど、そのくらいで、誕生日なんて、格別悪いことがなければそれで上々、なのだが、大阪の池田小の事件とか秋葉原通り魔事件の日になってしまったとなると、やはりちょっとアンビバレントな感じになる。


さらに、一昨年の私の誕生日の朝、父が死んだ。
誕生日が命日。聞けば血縁の中でそういうことはわりあいよくある話だそうで、それがつながり、まさに「縁」ということだそうだ。私の場合そうでもなければたぶん親の命日は記憶できないだろうからまあいいのだ。父の8か月前に亡くなった母の命日の日付は間違えてばかりだし、祖母は12月25日だから覚えているけど祖父の方は怪しい。。。

そういうわけで去年の誕生日は墓参りに行った。
今年もそのつもりで空けていたのだけれど、ちょうどそのころ福岡から Trio Los Fandangosがやってくるという知らせが届いた。スケジュールをチェックしてみるとこの日なら行ける、いや、そこしか行ける時がない、と判明。しかし夜のミロンガだ。普段仕事で遅くなる時に夫の見守りをお願いしている友人に、仕事ではないので心苦しいもののここはひとつお願いして、行ってしまおう、と決めた。お墓に行ったってどうせ♫わたしは~そこにいません~~ だし、たぶん。それこそ私、今回は還暦だしね、許されるよねお祝いしたって、と正当化。

先月出かけたミロンガで今度のミロンガ主催のマーシー&マギのお二人に会ったので、
「6月8日は伺います。私、誕生日なんです!」
と予告。(つまりはお祝いしてねと暗におねだり)

しかしなんといってもTLFは「嵐を呼ぶバンド」、台風が来て自分たちのライブが飛んでしまったこともあるくらい。彼らと雨男マーシーが一緒になったらどんな大嵐になるかと期待心配したけれど、雨にはならず、TLF東京ツアー初日のミロンガに大勢の人が集まったのだった。

メンバーや友人たちと再会を喜び、おしゃべりし、踊り、そしてTLFの生演奏。
音はキレッキレなのにメンバーの表情は余裕。最近増やしたレパートリーも長く弾いている曲も同じようにフロアとのやりとりを大切に演奏している。

TFLの第1ステージの終わりにマーシーさんが私をフロアに呼び出してくれてしばしのバースデー・セレモニーの時間を取ってくれた。TLFの演奏で歌ってもらったバースデー・ソング、エアコンの風で一気に消えたろうそくの火、なかなか点かないチャッカマン・・・常連でもない私のためになんだかんだと時間をとってしまったのに付き合ってくださったみなさんありがとう。マーシーさんの暖かいハグ、美味しかったケーキ、などなど思い出に残るひとときとなった。

 




帰りの時間があるのでマーシー・マギのデモの途中で失礼することになってしまって申し訳なかったけど、そんな風に甘えさせてもらえるのがタンゴの仲間。夫も一緒だったら何倍も楽しかっただろうとは思うけれど、夫と出会っていなければおそらくつながることのなかったこのコミュニティで節目の誕生日を過ごすことができて良かったと思う。

今月はまだ墓参りに行く時間が取れそうな日が1日あるから、と思っていたけれど、映画Chiamatemi Francesco - Il Papa della gente も見に行きたいし、温泉施設から今月末まで有効のこんなはがきも来ちゃったし、どうしようかなあ。